韓国人の名前を見ていると、「金海金氏」「全州李氏」「密陽朴氏」といった表現に出会うことがあります。金、李、朴が姓であることは分かっても、その前に付いている金海、全州、密陽とは何なのか。ここで登場するのが、韓国独特の家系を表す「本貫(ポングァン/본관)」です。
本貫は現在の出身地や住所を示すものではなく、同じ姓を持つ人の中で、一族の系統を区別するために受け継がれてきたものです。さらに韓国では、かつて「同姓同本」の男女は結婚できないという制度があり、この言葉は現在でも韓国の家族制度を語る際によく登場します。ただし、2026年現在は本貫が同じという理由だけで結婚できなくなることはありません。現在の婚姻制度では、本貫ではなく親族として何親等離れているかが基準となっています。

本貫は一族を示す名前
本貫の「本」は韓国の法律でも現在使われている正式な概念で、姓と組み合わせて一族の系統を示します。たとえば全州李氏なら「李」が姓で、「全州」が本貫です。本人がソウルで生まれ、両親もソウルで暮らしていたとしても、本貫が全州李氏ならその人の本は全州となります。現在住んでいる地域へ移したり、引っ越しによって変わったりするものではありません。そのため、日本の本籍や出身地と同じものとして考えると分かりにくくなります。
もう一つ知っておきたいのが、本貫よりさらに細かな家系の区分です。同じ本貫の一族が長い年月を重ねると、その中から複数の「派(パ/파)」が生まれます。さらに家系を記した「族譜(チョッポ/족보)」があり、一族の中で何代目に当たるのかを示す「行列(ハンニョル/항렬)」という考え方もあります。韓国人の名前に兄弟やいとこ、遠い親族で同じ漢字が使われている場合がありますが、これは同じ世代を示す行列字であることがあります。本貫だけで韓国の家系がすべて分かるわけではなく、本貫、派、族譜、世代という複数の情報によって、一族の位置関係を確認してきたのです。

本貫は子どもにも受け継がれる
本貫は昔の家系図だけに残っている言葉ではありません。現在の韓国民法にも「子の姓と本」という規定があり、原則として子どもは父親の姓と本を受け継ぎます。父親が全州李氏なら、子どもも基本的には李姓となり、本も全州になります。このため「本貫」は歴史文化の用語である一方、現代の家族制度にも残る情報です。
ただし、現在は必ず父親の姓と本を受け継がなければならないわけではありません。結婚を届け出る際、父母が子どもに母親の姓と本を受け継がせることで合意していれば、母親の姓と本を選べます。また、子どもの利益のために必要と認められる場合には、家庭法院の許可を受けて姓と本を変更する制度もあります。これは、かつて父系の家系を強く意識していた韓国の姓氏文化が、現在の家族制度の中で変化している部分でもあります。
韓国では結婚しても女性が夫の姓になる習慣はありません。金氏の女性が李氏の男性と結婚しても、女性は金氏のままで、自分の本貫もそのままです。夫婦が別姓なのは現在も一般的であり、日本人が韓国人の家族構成を見るときに最初に戸惑う部分かもしれません。本貫まで考えると、結婚によって女性が夫の家系そのものに変わるのではなく、それぞれが自分の姓と本を保持したまま夫婦になるという韓国の家族観が見えてきます。

同姓同本とはどんな関係か
「同姓同本(トンソンドンボン/동성동본)」とは、文字どおり姓も本貫も同じ人同士を指します。たとえば2人とも全州李氏であれば同姓同本です。一方、姓は李氏でも、一方が全州李氏、もう一方が慶州李氏であれば「同姓異本」となります。本貫だけが同じことを韓国語では「同本(トンボン/동본)」と表すこともあります。
ただし、同姓同本だからといって、現在の感覚で近い親戚だとは限りません。一つの本貫が数百年、場合によってはそれ以上にわたって続いていれば、そこには多数の子孫が存在します。共通する祖先を持つとされていても、何代も前に枝分かれしていれば、日常生活で親族として付き合う関係ではない人も含まれます。そのため現在の婚姻制度では、「同じ本貫か」という大きな単位ではなく、二人の血縁関係がどこまで近いかを見る方式になっています。
ここで本貫と「血縁」を完全に同じものとして考えないことも必要です。本貫は長い歴史の中で成立してきた家系上の区分であり、その成り立ちには分派、改貫、家系の再編なども関係しています。同じ本貫だから現代の遺伝学的な意味で近い関係にある、という単純な話ではありません。韓国で本貫を尋ねることは、その人の出生地を尋ねるのではなく、「どの氏族系統に属しているのか」を尋ねることに近いのです。

同姓同本でも現在は結婚できる
結論から言えば、2026年現在、同姓同本であることだけを理由に結婚が禁止されることはありません。現在の韓国民法では、8親等以内の血族同士の婚姻が禁止されています。つまり、姓が同じか、本貫まで同じかではなく、二人がどれほど近い血族なのかが判断基準です。反対に、姓や本貫が異なっていても、8親等以内の血族であれば婚姻制限の対象になります。
韓国の親等は「촌(チョン)」で表されます。親子が1親等、兄弟姉妹が2親等、叔父・叔母と甥・姪が3親等、いとこ同士が4親等です。さらに共通の祖先をさかのぼり、曽祖父母を共通とする同世代の親族は6親等、高祖父母を共通とする場合は8親等となります。本貫が同じでも、家系を何世代もさかのぼらなければ共通祖先にたどり着かないほど離れていれば、「同姓同本だから結婚できない」という昔の考え方は現在の法律には当てはまりません。
かつては事情が違いました。旧民法には「同姓同本である血族の間では婚姻できない」という規定があり、親族として何親等離れているかにかかわらず、同じ姓と本を持つことが婚姻の大きな制限となっていました。しかし、大規模な本貫では構成員が非常に多く、遠い祖先までさかのぼらなければ関係が確認できない男女まで一律に対象となります。この制度について1997年に憲法裁判所が憲法不合致の判断を示し、その後の民法改正によって同姓同本そのものを基準とした婚姻禁止制度は廃止されました。2005年の民法改正では現在につながる近親婚の基準が設けられ、「同じ本貫か」から「どこまで近い親族か」へ判断の基準が変わったのです。

韓国で今も本貫が語られる理由
法律上の婚姻制限が変わった現在でも、本貫という言葉は韓国社会から消えていません。家族の由来を話すとき、族譜を確認するとき、一族の集まりについて話すときなどには今も使われています。韓国の歴史ドラマで家門や宗家が重く扱われる場面がありますが、その背景には姓だけでなく、本貫や派によって家系を捉えてきた文化があります。韓国人同士でも、同じ姓だと分かったところから「本貫はどこ?」という話題になることがあり、そこで初めて同じ本貫だと判明する場合もあります。
韓国旅行中に古い集落、宗家、書院、祠堂などを訪れると、特定の姓と地名が組み合わされた名称を目にすることがあります。これも本貫や氏族文化を知っていると意味が分かってきます。そこに残されているのは単に一軒の古い家ではなく、何代にもわたる一族の歴史であり、祖先祭祀や族譜、地域社会との関係まで含んだ文化です。また、韓国ドラマや芸能人の記事で「○○金氏」「○○李氏」と書かれていた場合も、それは出身地を紹介しているのではなく、その人物の本貫を示しています。
韓国の本貫とは、同じ姓の人を細かく分けるためだけの制度ではありません。姓とともに受け継がれ、一族の由来や世代、族譜、婚姻制度にまで関わってきた韓国固有の姓氏文化です。そして「同姓同本なら結婚できない」という話は、かつて存在した制度に由来するもので、現在はそのまま当てはまりません。現在は8親等以内の血族かどうかによって婚姻の可否が判断されます。本貫と現在の婚姻制度を分けて理解すると、韓国人の名字だけを見ていたときには分からなかった家族文化の背景まで見えてくるといえそうです。


